ギターの各部位には、それに適しているとされている木材があります。
指板であるならば、ローズウッドであったり、エボニーであったり、ネック材を兼ねたメイプルであったり。
強度を求められる部位には、求められる強度を満たす木材が使用され、ボディなどギターの鳴りに影響するとされている部位には、そこに合ったまた違う木材が使われていたりします。
鳴りの部分に関しては、他のパーツやギターの設計や構造の影響も受けるので、材料だけの問題とは言えないのですが、高級なギターになればなるほど、構造的工夫や部品選びに加えて高級な木材が使用される事が多くなります。

Gibson / Les Paul Studio
さて、こちらのGibsonレスポールスタジオ。
価格は10万円程度。Gibsonレスポールとしては比較的低価格に類するモデルです。
ボディはメイプルトップ、マホガニーバックとレスポール伝統の材ですが、指板に使われているのはグラナディロという主に南米原産の木材です。
グラナディロはローズウッドの仲間と言われていますが、トーンキャラクターとしてはエボニーに近いと言われているので、ローズウッドとは別物であると考えられます。
グラナディロ自体は、アコースティックギター材などにも使われている事から、エレキギター指板に採用されたと言うのも分かる気がします。
以前の記事で紹介しました、仮面のギタリスト「バケッドヘッド」のGibson製
シグネイチャーモデル。
紙とフェノール樹脂(人工プラスチック)で作られた人工木材「リッチライト」が指板に採用されています。
ローズやエボニーであるどころか、人工木材が使われています。
人工ですから、最早木材と言って良い物かどうかも分かりません。
そもそも、エレキギター材として選定される木材は、強度面以外の部分、鳴りであるとか響き、トーンキャラクターの違いを考えて選択されています。
ですが、エレキギターは電磁コイルであるピックアップを通して音を出す楽器でありますから、これら木材の違いによる鳴りや響き、トーンキャラクターの変化は僅かであると言う意見も多く聞かれるのはご存知の事でしょう。
極論を言うならば、数百万、果ては数千万するようなヴィンテージギターは、決して良い音がする楽器などでは無く、あくまで骨董的価値とそれ自体のイメージによる幻想であると言う意見です。
確かに、響きの部分。サスティンなどは、弦の振動を長く引き伸ばす=良く響くと言う点で、電磁コイルを通そうがその構造や木材の違いによって変化が起こり易い部分かもしれません。
しかし、トーンキャラクター/音質という点ではどうなのでしょうか?
膨よかな音色、豊かな倍音、エレキギターの”良い音”として表現されるそれらの要素を決定付けるのは、木材の違いなどではなく、ピックアップそのものの差だとする意見もあります。
生でエレキギターを弾いた時の音が幾ら良く聞こえる楽器でも、ピックアップを通してしまえば誤差の範囲と捉える考え方です。
確かに私の様な素人でも、高級部材をふんだんに使ったギターと合板で出来た廉価ギターをクリーントーンで交互に引き比べれば其の差は分かります。
しかし、まったく情報を与えられず、目隠しでもしてどちらか一方のギターを手渡された場合、音色が好みであるか、サスティンが長く感じるか短く感じるか程度しか分からないとも思います。
比較対象が無くなれば、途端に良い音かどうかの基準があやふやになる訳です。
もちろん世の中には凄い方もいらっしゃる訳で、水の僅かな味の違いを効きわけられる酒造りのプロなんて方もいます。
同じように、比較対象が無くとも音の違いを聞き分けられる、「絶対”音質”感」なんて物を持った音楽家や楽器ビルダーが居ても不思議ではありません。
そういったプロの耳を持ったかたからすれば、この部位にはこの木材という拘りがあっても不思議ではないのですが、一般人には到底分からないと思います。
そうなると、ギター材の選定は印象的な問題で、プラシーボ効果の様に働くものでしかない事になってしまいます。
だからと言って、木材やパーツ選定、構造の違いによって起きる小さな音質の差、その小さな積み重ねが、良質な音を産み出す要因だと言う意見も分かる気がしますので、高級ギターを否定する気はありません。
結局、何が言いたいのかと言いますと、限りある資源である高級木材を使わなくとも良質な鳴りや響きを持つエレキギターが作れてしまうのではないのか?という事です。
人工木材であるリッチライトが指板に使われているように、現代の素材技術をもってすれば、何も木材の種類に拘らなくとも理想のエレキギターが作れてしまうのではないか?と。
以前、記事に書いた
スタインバーガーのネックが、カーボンとグラファイトで作られた合成素材であるように、ボディや指板材も木材以外の素材で優秀なギターが作れてしまいそうなものです。
しかし、エレキギターに要求されるのは音質だけでなく、その全体重量が重くなりすぎても駄目でしょうし、もちろん材料のコスト面も問題になってくるはずです。
東海楽器の意欲作、Talboシリーズ等のアルミニウム削り出しボディというギターもありますが、如何せん新素材=高価な製品という感じは否めません。
そう考えれば、今の所加工がし易くコスト面でも様々な種類が選べる木材というのがやはり理想なのでしょうか?
それとも近い将来、非木材で出来たエレキギターが主流になっている時代があるのでしょうか?
一方で、同価格帯のギターを見た場合、片方のボディ材はバスウッド、片方のボディ材はマホガニーだったりすると、途端にマホガニーボディのギターの方が良く感じてしまう(例え6プライ、7プライだろうと予想しても)私が居るのも事実です。
完全に木材神話に侵されている状態ですね。
こういうギター愛好者が減らない限り、ギター材の未来は思ったよりも変わって行かないのかな?とも思います。

Gibson / Les Paul Studio

石橋楽器店
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